退職後に家族の扶養に入る条件|130万円の壁と失業手当【2026年版】
退職後の健康保険で、いちばん負担が軽いのは「家族の扶養に入る」という選択です。保険料はゼロ円で、扶養に入る人が増えても家族側の保険料は変わりません。それでも「去年の年収が400万円あったから無理だろう」「失業手当をもらうから入れないはず」と最初からあきらめてしまう人が多いのが実情です。実際には、判定基準は退職前の年収ではなくこれから見込まれる収入。しかも失業手当をもらう場合も、期間を区切れば扶養に入れます。この記事では130万円の壁の正確な判定方法と、健康保険・年金・税金という3つの「扶養」の違いを整理します。
- 健康保険の扶養は「過去の年収」ではなく「これから見込まれる年間収入」で判定する。給与なら月額108,333円以下、雇用保険の失業給付なら日額3,611円以下が基準(年130万円未満に相当)
- 基本手当の日額が3,612円以上だと受給中は扶養に入れないが、待期7日間・給付制限期間(原則1か月)・受給が終わったあとは扶養に入れる。届出は事実発生から5日以内
- 保険料がゼロになるのは健康保険。国民年金がゼロになるのは配偶者の扶養(第3号被保険者)に入る20歳以上60歳未満の人だけで、親や子の扶養では国民年金保険料(令和8年度は月17,920円)を自分で払う
- 「扶養に入る」は3種類ある——まず区別する
- 健康保険の扶養に入る条件(130万円・150万円・180万円)
- 130万円は「これからの見込み」で判定する
- 失業手当をもらうと扶養に入れないのか
- 年金はどうなる?配偶者の扶養だけ保険料ゼロ
- 税金の扶養(配偶者控除・扶養控除)は別基準
- モデルケース:35歳・前年収入400万円で退職した場合の年間負担
- 手続きの流れと必要書類
- やりがちな失敗と注意点
「扶養に入る」は3種類ある——まず区別する
結論から言うと、「扶養」という言葉は3つの別々の制度を指しており、条件も手続き先も違います。ここを混同するとまず間違えます。
| 種類 | 何が得になるか | 収入の基準 | 失業手当は収入に含む? | 手続き先 |
|---|---|---|---|---|
| 健康保険の扶養 (被扶養者) | 健康保険料がゼロ | 年間収入130万円未満の見込み | 含む | 家族の勤務先 |
| 国民年金の扶養 (第3号被保険者) | 国民年金保険料がゼロ | 年間収入130万円未満の見込み ※配偶者のみ・20歳以上60歳未満 | 含む | 配偶者の勤務先 |
| 税金の扶養 (配偶者控除・扶養控除) | 家族の所得税・住民税が減る | 合計所得金額58万円以下 (給与収入なら123万円以下) | 含まない(非課税) | 家族の年末調整・確定申告 |
健康保険の扶養に入る条件(130万円・150万円・180万円)
健康保険の被扶養者になるには、次の2つを両方満たす必要があります。
- ①続柄の条件:配偶者、子・孫・兄弟姉妹、父母・祖父母などの直系尊属は同居していなくても対象。それ以外の3親等内の親族(伯叔父母、甥・姪とその配偶者など)や内縁配偶者の父母・子は同居が必要
- ②収入の条件:年間収入が下表の額未満で、同一世帯なら被保険者(家族)の年間収入の2分の1未満、別居なら被保険者からの仕送り額より少ないこと
| 対象者 | 年間収入の基準 | 月額の目安 | 失業給付の日額の目安 |
|---|---|---|---|
| 原則(下記以外) | 130万円未満 | 108,333円以下 | 3,611円以下 |
| 19歳以上23歳未満(配偶者を除く) | 150万円未満 | 125,000円以下 | 4,166円以下 |
| 60歳以上、または障害厚生年金を受けられる程度の障害者 | 180万円未満 | 150,000円以下 | 5,000円未満 |
月額・日額の目安は、年間の基準額を12か月または360日で割った金額です。健康保険は年単位ではなくその時点の収入ペースで見るため、実務では月額・日額の判定が使われます。なお、被扶養者になれるのは75歳未満の方です(75歳になると後期高齢者医療制度の被保険者になります)。
130万円は「これからの見込み」で判定する
結論として、退職前の年収がいくらでも扶養に入れます。これが最も誤解されているポイントです。
健康保険の被扶養者の「年間収入」は、確定した過去1年の実績ではなく、認定を受ける時点から将来に向かって継続的に得られると見込まれる収入を指します。協会けんぽも、労働契約で定められた賃金から見込まれる年間収入が基準額未満であるかどうかで判定すると説明しています。
逆に言えば、扶養に入ったあとで収入が増える見込みになった時点で、扶養から外れる届出が必要になります。パートを始めて月額108,333円を超えることになった、失業手当の支給が始まって日額3,612円以上になった——いずれも「事実が発生した時点」が基準です。
失業手当をもらうと扶養に入れないのか
結論は「日額次第。そして期間を区切れば入れる」です。
日本年金機構は、雇用保険等の受給者については日額3,611円以下であれば収入要件を満たすとしています。逆に、基本手当が3,612円以上支給されるようになった場合は、扶養から削除する届出が必要です。3,611円 × 360日 = 約130万円という換算から来ている数字です。
受給が始まる前と終わったあとは扶養に入れる
ここが実務上いちばん役に立つ知識です。日額が3,612円以上でも、実際に基本手当が支給されていない期間は収入がないため、被扶養者として認定できます。日本年金機構も、雇用保険の待期期間中でも収入要件を満たしていれば被扶養者として認定することが可能で、基本手当の支給が始まった場合に扶養削除の届出が必要になると説明しています。
| 時期 | 期間の長さ | 扶養に入れるか(日額3,612円以上の場合) |
|---|---|---|
| 退職直後〜待期期間 | 7日間 | 入れる |
| 給付制限期間(自己都合退職) | 原則1か月 ※5年間に3回以上の自己都合離職は3か月 | 入れる |
| 基本手当の受給中 | 所定給付日数(90〜330日) | 入れない(国保か任意継続へ) |
| 受給終了後(引き続き無職) | — | 入れる |
日額が3,611円以下になるのはどんな人か
基本手当日額は、退職前6か月の賃金をもとにした賃金日額に給付率(原則50〜80%、離職時の年齢と賃金水準で変動)を掛けて決まります。日額3,611円以下になるのは、おおむね退職前の月収が10万円台前半までのパート・短時間勤務だった場合です。フルタイム勤務だった人はほぼ3,612円以上になるため、「受給中は扶養に入れない」前提で考えるのが現実的です。
年金はどうなる?配偶者の扶養だけ保険料ゼロ
結論として、国民年金保険料がゼロになるのは配偶者の扶養に入る場合だけです。ここを見落とすと、思っていたより負担が減りません。
国民年金の第3号被保険者は、厚生年金に加入している人(第2号被保険者)に扶養されている配偶者で、原則として年収130万円未満の20歳以上60歳未満の方が対象です。保険料の負担はなく、それでいて老齢基礎年金の受給資格期間に算入されます。届出は健康保険の被扶養者の届出と同時に、配偶者の勤務先を通じて行います。
払えないときは免除・納付猶予を申請する
退職して収入がなくなった場合、失業等による特例免除が使えます。失業・倒産・事業の廃止などの事実が確認できたときは、失業した本人の前年所得にかかわらず免除・納付猶予の審査を受けられる仕組みです。離職票や雇用保険受給資格者証を添えて、市区町村の年金窓口または年金事務所へ申請します。
| 制度 | 審査対象になる人の所得 | 対象年齢 | 年金額への反映 |
|---|---|---|---|
| 全額免除 | 本人・配偶者・世帯主 | 制限なし | 全額納付した場合の2分の1が反映 |
| 納付猶予 | 本人・配偶者(世帯主は問わない) | 20歳以上50歳未満 | 反映されない(受給資格期間には算入) |
なお、免除・納付猶予は申請時点から2年1か月前までさかのぼって申請できます。「払えず放置していた」という場合も、あきらめずに窓口へ相談してください。
税金の扶養(配偶者控除・扶養控除)は別基準
結論として、税金の扶養は失業手当を収入にカウントしません。健康保険とは正反対です。
配偶者控除の対象となる控除対象配偶者は、その年の12月31日時点で、①民法上の配偶者、②生計を一にしている、③年間の合計所得金額が58万円以下(給与収入のみなら123万円以下)、④事業専従者でない、の4要件をすべて満たす人です。控除額は納税者本人の合計所得金額が900万円以下なら38万円(配偶者が70歳以上なら48万円)です。扶養控除の対象となる扶養親族も、同じ合計所得金額58万円以下という要件です。
この結果、失業手当を月15万円もらっている人は、健康保険の扶養には入れないのに、税金の扶養(配偶者控除)には入れるというねじれが生じます。健康保険を国保に切り替えたからといって、家族の年末調整で配偶者控除を出し忘れないようにしてください。
退職した年は、1月から退職月までの給与が合計所得金額に入ります。年の途中で退職した人は、その年は税金の扶養に入れず、翌年から入れるというパターンが一般的です。健康保険の扶養(すぐ入れる)と税金の扶養(翌年から)でタイミングがずれる、と理解しておくとよいでしょう。
モデルケース:35歳・前年収入400万円で退職した場合の年間負担
実際にいくら変わるのかを、次の前提で試算します。
- 35歳・独身・2026年3月末に自己都合で退職、その後1年間は無職
- 前年(令和7年)の給与収入400万円 → 給与所得276万円 → 国保の所得割の算定基礎は233万円(基礎控除43万円を差引後)
- 国保は東京都新宿区の令和8年度料率(医療分7.51%+均等割47,600円、支援金分2.80%+17,600円、子ども・子育て支援金分0.27%+1,873円)
- 国民年金保険料は令和8年度の月17,920円
| パターン | 健康保険料(年) | 国民年金保険料(年) | 年間合計 |
|---|---|---|---|
| ①配偶者の扶養に入る(第3号被保険者) | 0円 | 0円 | 0円 |
| ②親の扶養に入る+納付猶予が通る | 0円 | 0円(猶予) | 0円 ※年金額には反映されない |
| ③親の扶養に入る(年金は自分で納付) | 0円 | 21万5,040円 | 21万5,040円 |
| ④扶養に入らず国保+国民年金 | 約31万3,600円 | 21万5,040円 | 約52万8,600円 |
読み取れるのは次の3点です。
- 健康保険の扶養に入れるかどうかで年約31万円変わる:④と③の差。1か月分の生活費を大きく超える金額で、退職後の貯金の減り方に直結します
- 配偶者の扶養なら年約53万円がゼロになる:①と④の差。共働き夫婦の一方が退職する場合、この差を知らずに国保へ加入してしまうのは大きな損です
- 親の扶養では年金が残る:③のケース。納付猶予が通れば負担はゼロになりますが、その期間は年金額に反映されないため、余裕ができたら10年以内に追納するのが望ましいです
手続きの流れと必要書類
手続きは自分で役所に行くのではなく、扶養してくれる家族の勤務先を通じて行います。
- ①家族に依頼する:勤務先の人事・総務に「健康保険被扶養者(異動)届」を出してもらいます。国民年金第3号被保険者関係届も同時に提出されます
- ②期限は事実発生から5日以内:退職日の翌日が「事実発生日」です。実際には多少過ぎても受け付けられますが、遅れると認定日が後ろにずれて空白期間が生じることがあります
- ③続柄の確認書類:戸籍謄(抄)本または住民票(いずれも提出日から90日以内に発行されたもの)。マイナンバーを記載すれば省略できる場合があります
- ④収入の確認書類:退職証明書または離職票のコピー(退職日がわかるもの)、雇用保険受給資格者証のコピー(失業手当を受ける/受けた場合)、課税・非課税証明書など
- ⑤保険証が届くまで:資格取得後、マイナ保険証の情報が反映されるまで数日〜数週間かかることがあります。急ぎで受診するときは「資格確認書」の交付を勤務先経由で依頼してください
やりがちな失敗と注意点
- 失業手当の受給開始を届け出ない:最も多いトラブルです。あとから資格取消となり、その間に使った医療費の保険負担分(7割)を返還請求されることがあります。支給開始が決まったら必ず届け出てください
- 「退職前の年収が高いから無理」と決めつける:判定はこれからの見込みです。退職日の翌日から入れる可能性が高いので、まず勤務先に確認してください
- 被保険者の収入の2分の1未満という条件を忘れる:同居している場合、130万円未満でも家族の年収の半分以上あると認定されません(このときも総合的に判断されることがあるので、保険者に相談してください)
- 別居なのに仕送りの証明がない:別居の場合は「仕送り額より収入が少ない」ことが条件です。銀行振込の記録など、継続的な送金を証明できるものを用意します。手渡しは証明が困難です
- 年金の届出を忘れる:健康保険の扶養に入っても、20歳以上60歳未満の配偶者は国民年金第3号被保険者への切り替え届が必要です。健保の届出とセットで出されているか確認してください
- 親の扶養で年金を放置する:未納は将来の年金額を減らし、障害年金・遺族年金の受給資格にも影響します。払えないときは必ず免除・納付猶予を申請してください
まとめ
- 健康保険の扶養は「これから見込まれる年間収入」で判定する。退職前の年収は関係なく、退職日の翌日から入れることが多い
- 基準は年130万円未満(19歳以上23歳未満で配偶者を除く場合は150万円未満、60歳以上・障害者は180万円未満)。月額108,333円以下、失業給付なら日額3,611円以下が目安
- 基本手当の日額が3,612円以上なら受給中は扶養に入れないが、待期7日・給付制限期間・受給終了後は入れる。出入りには5日以内の届出が必要
- 国民年金がゼロになるのは配偶者の扶養(第3号被保険者、20歳以上60歳未満)だけ。親の扶養では月17,920円(令和8年度)を自分で払うか、失業等による特例免除・納付猶予を申請する
- 税金の扶養は合計所得金額58万円以下(給与収入123万円以下)で判定し、失業手当は非課税なので含めない。健康保険はダメでも税金の扶養には入れるケースがある
参考・出典
- 日本年金機構「従業員が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」(年間収入130万円未満・60歳以上等は180万円未満、月額108,333円以下、雇用保険等受給者は日額3,611円以下、基本手当3,612円以上で扶養削除、待期期間中の認定、同居が必要な範囲、届出期限5日以内、添付書類)
- 日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」(免除は本人・配偶者・世帯主、納付猶予は本人・配偶者かつ20歳以上50歳未満、全額免除の所得基準額、失業等による特例免除、年金額への反映、10年以内の追納)
- 日本年金機構「国民年金保険料」(令和8年度の保険料月額17,920円)
- 国税庁「No.1191 配偶者控除」(控除対象配偶者の要件、合計所得金額58万円以下・給与収入123万円以下、控除額38万円/48万円)
- 国税庁「雇用保険法上の求職者給付を受給している配偶者」(雇用保険法第12条により求職者給付は非課税で、合計所得金額に含めない)
- 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」(基礎控除・給与所得控除の見直し、扶養親族等の所得要件48万円→58万円)