任意継続と国保はどっちが安い?退職後の健康保険料を比較【2026年版】
退職して会社の健康保険を抜けると、「任意継続」「国民健康保険」「家族の扶養」の3つから選ぶことになります。しかも任意継続の申請期限は退職日の翌日から20日以内、国保は14日以内。退職バタバタの時期に、ほとんど猶予のないまま決断を求められます。この記事では、令和8年度(2026年度)の実際の保険料率をもとに、東京都・年収480万円のモデルケースで3択の金額を比べます。結論を先に言うと、判断の分かれ目は「退職理由」と「扶養する家族の人数」の2点です。
- 任意継続の保険料は退職時の標準報酬月額×都道府県の保険料率の全額自己負担(会社負担分がなくなるので実質2倍)。ただし協会けんぽの標準報酬月額の上限は令和8年度も32万円で据え置き
- 倒産・解雇・雇止めなどによる離職(雇用保険の特定受給資格者・特定理由離職者)なら、国保は前年の給与所得を100分の30として算定する軽減が使え、離職日の翌日が属する月から翌年度末まで大幅に安くなる
- 東京都・前年収入480万円・39歳・単身のモデルでは、任意継続が年38万7,072円、国保(軽減なし)が年約38万1,300円、国保(非自発的失業の軽減あり)が年約13万円。会社都合なら国保、扶養家族が2人以上なら任意継続が有利になりやすい
- 退職後の健康保険は3択——まず期限を押さえる
- 任意継続の保険料はこう決まる(令和8年度の数字)
- 国民健康保険の保険料はこう決まる
- 会社都合退職なら国保が圧勝——非自発的失業者の軽減制度
- モデルケースで比較:年収480万円・東京都
- 金額以外の判断ポイント(扶養家族・傷病手当金・途中でやめられるか)
- 家族の扶養に入れるケース
- 迷ったときの選び方フローチャート
退職後の健康保険は3択——まず期限を押さえる
結論として、日本は国民皆保険なので「何も入らない」という選択肢はありません。次の3つのどれかを選びます。
| 選択肢 | 期限 | 手続き先 | 保険料の決まり方 |
|---|---|---|---|
| 任意継続(今の健康保険を続ける) | 退職日の翌日から20日以内 | 協会けんぽ支部(健保組合の場合は組合) | 退職時の標準報酬月額×保険料率(全額自己負担) |
| 国民健康保険 | 退職日の翌日から14日以内 | 市区町村の窓口 | 前年の所得+世帯の加入人数で計算 |
| 家族の扶養(被扶養者) | すみやかに(家族の勤務先経由) | 家族の勤務先 | 追加負担ゼロ |
なお任意継続には、退職日までに継続して2か月以上の健康保険の被保険者期間があることという条件もあります。入社してすぐ退職した人は使えません。
任意継続の保険料はこう決まる(令和8年度の数字)
任意継続の保険料は「退職時の標準報酬月額 × 住んでいる都道府県の保険料率」です。在職中は会社と労働者が半分ずつ負担していましたが、協会けんぽが明記しているとおり、退職後は本人が全額負担になります。つまり給与明細に載っていた健康保険料の、おおむね2倍です。
ただし救いがあります。協会けんぽの任意継続には標準報酬月額の上限があり、令和8年度(2026年度)は32万円で、前年度から据え置かれました。退職時の標準報酬月額が40万円でも50万円でも、32万円として計算されるため、高収入だった人ほど負担の伸びが抑えられます。
保険料率は都道府県ごとに異なります。令和8年度は全都道府県で引下げまたは据置きとなり、最も高いのは佐賀県の10.55%です。自分の支部の額は協会けんぽの「令和8年度保険料額表」で確認できます(任意継続被保険者向けの表が別に用意されています)。
2年間ずっと同じ額(値上がりも値下がりもしにくい)
任意継続の保険料は、原則として2年間変わりません。退職時の標準報酬月額で固定されるため、無職で収入がゼロになっても保険料は下がりません。逆に、料率改定・40歳到達(介護保険料の追加)・65歳到達・他県への転出があったときだけ変わります。
国民健康保険の保険料はこう決まる
国保の保険料は「前年の所得に応じた所得割」+「加入人数に応じた均等割」の合計で、料率は市区町村ごとに違います。ここでは東京23区(新宿区)の令和8年度の数字を使って構造を示します。
| 区分 | 所得割率 | 均等割額(1人あたり) | 賦課限度額 |
|---|---|---|---|
| 医療分 | 7.51% | 47,600円 | 67万円 |
| 後期高齢者支援金分 | 2.80% | 17,600円 | 26万円 |
| 介護分(40〜64歳のみ) | 2.43% | 17,800円 | 17万円 |
| 子ども・子育て支援金分 | 0.27% | 1,873円(18歳以上) | 3万円 |
所得割の計算のもとになるのは、前年(令和7年)の総所得金額等から基礎控除43万円を差し引いた額です。ここが会社の健康保険と決定的に違う点で、国保には扶養という概念がありません。家族を国保に入れると、その人数分の均等割が積み上がります(所得のない子どもでも均等割はかかります。ただし未就学児の軽減など各自治体の制度があります)。
会社都合退職なら国保が圧勝——非自発的失業者の軽減制度
結論として、倒産・解雇・雇止めなどで離職した人は、ほぼ国保を選ぶべきです。国民健康保険には非自発的失業者の保険料軽減があり、これが効くと保険料が3分の1近くまで下がります。
- 対象:離職日時点で65歳未満で、ハローワークで雇用保険の手続きをして特定受給資格者または特定理由離職者と認められた方
- 内容:前年の給与所得を100分の30とみなして保険料を算定(高額療養費の所得区分判定にも適用)
- 期間:離職日の翌日が属する月から、その月が属する年度の翌年度末まで(最長約2年間)
- 手続き:雇用保険受給資格者証(または雇用保険受給資格通知)と本人確認書類を持って市区町村の国保窓口へ。郵送申請も可
モデルケースで比較:年収480万円・東京都
実際の金額で比べます。前提は次のとおりです。
- 東京都在住・単身世帯(国保は新宿区の令和8年度料率)
- 前年(令和7年)の給与収入480万円 → 給与所得340万円 → 所得割の算定基礎は297万円(基礎控除43万円を差引後)
- 退職時の標準報酬月額32万円(=任意継続の上限にちょうど当たる)
- 任意継続は令和8年4月分からの東京支部の料率(40歳未満10.08%/40〜64歳11.70%)
| 年齢 | 任意継続 | 国保(軽減なし=自己都合) | 国保(非自発的失業の軽減あり) |
|---|---|---|---|
| 39歳(介護分なし) | 年38万7,072円 (月3万2,256円) | 年約38万1,300円 (月約3万1,800円) | 年約13万円 (月約1万800円) |
| 45歳(介護分あり) | 年44万9,280円 (月3万7,440円) | 年約47万1,300円 (月約3万9,300円) | 年約16万2,000円 (月約1万3,500円) |
読み取れることは3つです。
- 会社都合(軽減あり)なら国保が圧倒的に安い:39歳で年約25万7,000円、45歳で年約28万7,000円の差。1か月分の生活費以上が浮きます
- 自己都合(軽減なし)なら差は小さい:39歳は任意継続がわずかに高く、45歳は逆に任意継続が年約2万2,000円安い。数万円レベルの勝負なので、下の「金額以外の判断ポイント」で決めるべき水準です
- 介護分の有無で逆転する:国保の介護分(所得割2.43%+均等割17,800円)は任意継続の介護保険料率1.62%より重くなりやすく、40歳以上では任意継続が有利になる場面が増えます
金額以外の判断ポイント(扶養家族・傷病手当金・途中でやめられるか)
保険料が近い金額になったときは、次の3点で決めます。
1. 扶養する家族がいるなら任意継続が有利になりやすい
任意継続では、在職中と同じように被扶養者の保険料は追加でかかりません。一方、国保は加入する家族の人数だけ均等割が積み上がります。新宿区の例では、18歳以上の加入者が1人増えるだけで医療分47,600円+支援金分17,600円+子ども・子育て支援金分1,873円=年6万7,073円の均等割が加算されます(所得があればさらに所得割)。配偶者と子ども1人を扶養しているなら、それだけで年13万円以上の差が生まれる計算です。
2. 傷病手当金は任意継続では新たに受けられない
任意継続は「原則、在職中と同様の給付」を受けられますが、傷病手当金と出産手当金は例外です。協会けんぽは、任意継続被保険者期間中に発生した病気・ケガによる傷病手当金および出産手当金は支給されないと明記しています。受けられるのは、在職中から継続して給付されている場合(継続給付)だけです。
「病気で働けなくなったときに備えて任意継続にする」という発想は成り立ちません。ただし退職前から傷病手当金を受けていて継続給付の要件を満たすなら、任意継続を選ぶ実益があります(国保には傷病手当金がありません)。
3. 任意継続は途中でやめられる(2年縛りではない)
かつて任意継続は「原則2年間やめられない」制度でしたが、現在は本人の申出による資格喪失が認められています。協会けんぽが挙げる資格喪失事由は、①再就職して健康保険等の被保険者になったとき、②保険料を納付期限までに納付しなかったとき、③後期高齢者医療制度の被保険者になったとき、④任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を申し出たとき、⑤死亡したとき、そして⑥加入から2年が経過したときです。
家族の扶養に入れるケース
結論として、条件を満たすならこれが最も安い選択です。追加の保険料負担はゼロで、被扶養者が増えても家族側の保険料は変わりません。
ただし収入要件があります。年間収入130万円未満(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者は180万円未満、19歳以上23歳未満で配偶者を除く場合は150万円未満)で、同一世帯なら被保険者の年間収入の2分の1未満、別世帯なら被保険者からの援助額より少ないことが必要です。
迷ったときの選び方フローチャート
- ①家族の扶養に入れるか?(年収要件を満たし、失業手当の日額が3,612円未満または受給前・受給後)→ 入れるなら扶養が最安
- ②離職理由は会社都合・特定理由離職者か? → はい なら国保+非自発的失業者の軽減。単身なら迷う余地はほぼありません
- ③扶養する家族が2人以上いるか? → はい なら任意継続が有利になりやすい(均等割が積み上がらない)
- ④40歳以上か? → はい なら国保の介護分が重く、任意継続が有利に傾きやすい
- ⑤どちらも近い金額なら → 市区町村の国保窓口で実額を試算してもらい、協会けんぽの保険料額表と比べる。1年目は任意継続、2年目に国保へ切り替える選択も検討
まとめ
- 任意継続は退職日の翌日から20日以内、国保は14日以内。任意継続の期限を過ぎると選択肢が消えるので、退職日が決まった時点で試算する
- 任意継続は退職時の標準報酬月額×都道府県の保険料率の全額負担。令和8年度の協会けんぽの標準報酬月額の上限は32万円(東京支部は40歳未満10.08%、40〜64歳11.70%)
- 会社都合・特定理由離職者なら、国保の非自発的失業者軽減(前年の給与所得を100分の30とみなす)で年20万円以上安くなることがある。申請が必要
- 金額が近いときは扶養家族の人数で決める。任意継続は被扶養者の保険料が無料、国保は人数分の均等割がかかる
- 任意継続でも新たな傷病手当金・出産手当金は出ない。申出による途中脱退は可能なので「1年目は任意継続、2年目は国保」も選べる
参考・出典
- 全国健康保険協会「健康保険任意継続制度(退職後の健康保険)について」(加入条件の継続2か月以上、退職日の翌日から20日以内の申請、加入期間2年、保険料の全額自己負担と標準報酬月額の上限、資格喪失事由)
- 全国健康保険協会「令和8年度保険料額表(任意継続被保険者の方の健康保険料額・令和8年4月分〜)」(東京支部の料率10.08%/11.70%、標準報酬月額の上限32万円、上限時の月額保険料、前納割引)
- 全国健康保険協会「令和8年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます」(都道府県別保険料率、介護保険料率1.62%、任意継続は4月分から適用)
- 全国健康保険協会「任意継続(給付と手続き)」(任意継続被保険者期間中に発生した傷病手当金・出産手当金は不支給)
- 新宿区「保険料の計算方法について」(令和8年度の医療分・支援金分・介護分・子ども子育て支援金分の所得割率と均等割額、賦課限度額、基礎控除43万円)
- 新宿区「非自発的失業者の国民健康保険料の軽減について」(対象者の条件、給与所得を100分の30として算定、軽減期間、必要書類)