傷病手当金と失業手当の違いと切り替え方|同時にもらえる?【2026年版】
病気やケガで会社を休み、そのまま退職を考えている人にとって、「傷病手当金と失業手当は両方もらえるのか」「どちらを先に受け取ればいいのか」は大きな不安です。結論から言うと、この2つは同時には受け取れません。役割が正反対だからです。しかし正しい順番で手続きすれば、療養中も退職後も収入の空白をつくらずに給付を受け取れます。この記事では、両制度の違いと、退職後の継続給付・受給期間延長を使った切り替え方を、協会けんぽとハローワークの公表情報にもとづいて解説します。
- 傷病手当金(働けない人向け)と失業手当(すぐ働ける人向け)は役割が正反対で、同時には受け取れない。「療養中は傷病手当金→回復後は失業手当」とバトンタッチするのが基本
- 金額の大小は月収で逆転する。当サイトの計算式で試算すると、月収27万円前後が分かれ目で、それより低い人は失業手当のほうが日額が高く、高い人は傷病手当金のほうが高い
- 病気やケガが理由の退職は特定理由離職者と判断されうる。該当すれば自己都合でも給付制限(原則1か月)がかからず、被保険者期間の要件も1年間に6か月以上へ緩和される
- 退職後も療養が続くなら、退職後すぐハローワークで失業手当の「受給期間延長」を申請すれば、受給期間を最長4年まで延ばして回復後に受け取れる
- 2つの制度を分ける、たった1つの基準
- 療養中と回復後、金額はどう変わる?(当サイトの計算式で比較)
- 傷病手当金は本当に「給料の3分の2」なのか
- 退職しても傷病手当金は続くのか——2つの関門
- あなたはどのパターン?退職時の状況別チャート
- 回復後に失業手当へ切り替える実務
- よくある誤解を5つ、訂正します
- 申請書のどこで詰まるか
2つの制度を分ける、たった1つの基準
この2つを同時に受け取れない理由は、突き詰めるとひとつです。傷病手当金は「働けない」ことが支給の条件、失業手当は「働ける」ことが受給の条件だから。同じ期間について「働けない」と「働ける」の両方を主張することはできないので、どちらか一方しか成立しません。
加入している保険も、窓口も、金額の決まり方も別物です。
| 傷病手当金 | 失業手当(基本手当) | |
|---|---|---|
| 制度 | 健康保険 | 雇用保険 |
| 対象 | 病気・ケガで働けない人 | すぐ働けるのに職がない人 |
| 窓口 | 協会けんぽ・健康保険組合 | ハローワーク |
| 金額のもと | 標準報酬月額の平均 | 離職前6か月の賃金(賞与を除く) |
| 金額の目安 | 賃金の約3分の2(日額) | 賃金日額の5〜8割(日額) |
| 期間 | 支給開始日から通算1年6か月 | 年齢・勤続・離職理由で90〜330日 |
療養中と回復後、金額はどう変わる?
ここからは、当サイトのシミュレーターが使っている計算式(令和8年8月1日改定の基本手当日額)と、協会けんぽの傷病手当金の計算式で、同じ人の「療養中の1か月」と「回復後の1か月」を実際に計算して並べます。他サイトの一般論ではなく、当サイトの計算ロジックから導いた数値です。
試算の前提:標準報酬月額の平均=月収と仮定。賃金日額=月収×6÷180(賞与は含めない)。基本手当日額は令和8年8月1日改定の逓減式・年齢別上限を適用。傷病手当金日額は協会けんぽの端数処理(平均額÷30は10円未満四捨五入、×3分の2は1円未満四捨五入)で計算しています。
| 条件(年齢・月収・勤続) | 療養中 傷病手当金の日額/30日分 | 回復後 基本手当の日額/30日分 | 日額の差 |
|---|---|---|---|
| 28歳・22万円・3年 | 4,887円/146,610円 | 5,357円/160,710円 | 失業手当が470円高い |
| 35歳・28万円・7年 | 6,220円/186,600円 | 6,119円/183,570円 | 傷病手当金が101円高い |
| 42歳・34万円・12年 | 7,553円/226,590円 | 6,582円/197,460円 | 傷病手当金が971円高い |
| 52歳・41万円・22年 | 9,113円/273,390円 | 6,833円/204,990円 | 傷病手当金が2,280円高い |
| 62歳・30万円・25年 | 6,667円/200,010円 | 5,348円/160,440円 | 傷病手当金が1,319円高い |
分かれ目は月収27万円前後
表を見ると、月収が低い人だけ失業手当のほうが高くなっています。理由は基本手当日額の「逓減」です。基本手当は賃金日額が低いほど高い割合(最大80%)で計算され、賃金が上がるほど割合が下がって最後は50%(60〜64歳は45%)に張り付きます。一方、傷病手当金は月収がいくらでも一律で約3分の2(66.7%)。だから、賃金比が66.7%を切るあたりで逆転します。
40歳・勤続12年の人で月収だけを動かして計算すると、逆転点はこうなります。
| 月収 | 賃金日額 | 基本手当日額 (賃金比) | 傷病手当金日額 (賃金比) | どちらが高い |
|---|---|---|---|---|
| 20万円 | 6,667円 | 5,037円(75.6%) | 4,447円(66.7%) | 失業手当 |
| 24万円 | 8,000円 | 5,644円(70.5%) | 5,333円(66.7%) | 失業手当 |
| 27万円 | 9,000円 | 6,013円(66.8%) | 6,000円(66.7%) | ほぼ同額 |
| 30万円 | 10,000円 | 6,307円(63.1%) | 6,667円(66.7%) | 傷病手当金 |
| 36万円 | 12,000円 | 6,669円(55.6%) | 8,000円(66.7%) | 傷病手当金 |
回復後の失業手当が具体的に何日分・いくらになるかは、年齢と勤続年数の組み合わせで決まります。失業給付の日数早見表で自分の欄を確認してください。
傷病手当金は本当に「給料の3分の2」なのか
まず、支給されるのは次の4つをすべて満たしたときです。
- 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること(仕事中・通勤中のケガは労災の対象)
- 仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと(この最初の連続3日間が「待期」)
- 休業した期間について給与の支払いがないこと(一部支給なら差額を補う)
計算の元は「給料」ではなく「標準報酬月額」
1日あたりの金額は次の式です。
支給開始日以前の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30 × 3分の2
ここでよく誤解されるのが「給料の3分の2」という言い方です。実際の計算に使うのは標準報酬月額——社会保険料の計算のために給与を区切りのよい等級に当てはめた金額で、残業代の増減がそのまま反映されるわけではありません。賞与も含まれません。年収に占める賞与の割合が大きい人ほど、体感の「3分の2」より少なくなります。
計算の端数処理も決まっています。平均額を30で割った時点で10円未満を四捨五入し、そこに3分の2を掛けて1円未満を四捨五入します。標準報酬月額の平均が30万円なら、30万円÷30=10,000円、×3分の2=6,667円が日額です。
加入12か月未満なら「32万円」との低いほうで計算される
意外と知られていないのが、支給開始日以前の被保険者期間が12か月に満たない場合の扱いです。この場合は、次のいずれか低い額を使って計算します。
- 支給開始日以前の、直近の継続した各月の標準報酬月額の平均額
- 支給開始日が令和7年4月1日以降なら32万円(協会けんぽの全被保険者の標準報酬月額の平均額)
転職して間もない人が高い給与で入社していても、日額は32万円ベース(=32万円÷30=10,670円×3分の2=7,113円)で頭打ちになります。転職直後の休職では、この差が想定外に効くことがあります。
支給期間は「通算」1年6か月
支給を開始した日から通算して1年6か月です。令和4年1月1日以降は、途中で復職して傷病手当金が支給されなかった期間は差し引いてカウントされます。つまり「働けなかった日」だけを積み上げて1年6か月に達するまで受け取れる仕組みで、復職と再休職を繰り返しても日数を無駄にしません。
退職しても傷病手当金は続くのか——2つの関門
退職して健康保険の被保険者でなくなっても、次の2つを満たせば受け取り続けられます(資格喪失後の継続給付)。逆にいえば、この2つは退職前にしか整えられません。
- 関門①:退職日までに、健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あること(任意継続・国保などの期間は除く)
- 関門②:退職日(資格喪失日の前日)の時点で、傷病手当金を受けているか、受けられる状態であること
なお継続給付は「退職前から続いている同じ傷病」が対象です。退職後に新しく発症した病気で働けなくなっても、その分の傷病手当金は出ません。
あなたはどのパターン?退職時の状況別チャート
退職時点の状況によって、やるべき手続きは4通りに分かれます。自分がどれに当てはまるか確認してください。
| 退職日までの健保加入 | 退職日の状態 | 退職後の療養見込み | あなたがやること |
|---|---|---|---|
| 継続1年以上 | 療養中(出勤していない) | 30日以上続く | ①フル活用パターン 退職後も傷病手当金を継続受給。あわせて退職後すぐハローワークで受給期間延長を申請し、回復後に失業手当へ。空白が最も小さい |
| 継続1年未満 | 療養中 | 30日以上続く | ②延長のみパターン 傷病手当金は退職で打ち切り。失業手当の受給期間延長だけは必ず申請し、回復後の受給権を守る。国保・年金の減免も早めに相談を |
| 問わない | すでに回復・就労可能 | 療養なし | ③即申請パターン 離職票が届き次第ハローワークで求職申込み。病気が退職理由なら特定理由離職者の判断を求め、給付制限の有無を確認する |
| 問わない | 療養中 | 30日未満で回復見込み | ④延長不要パターン 受給期間延長の要件(引き続き30日以上働けない)を満たさない。回復後すみやかに求職申込みへ。ただし療養が長引いたら30日経過後に延長を申請できる |
回復後に失業手当へ切り替える実務
失業手当の受給期間は原則「離職日の翌日から1年間」です。この1年の間に病気で受け取れないと、権利がそのまま消えます。ここを守るのが受給期間延長です。
- ①退職後も傷病手当金を継続受給:上の2つの関門を満たしていれば、退職後も引き続き受け取る
- ②退職後すぐ、ハローワークで受給期間延長を申請:病気やケガで引き続き30日以上働けないときに申請できる。延長できるのは最長3年で、本来の1年とあわせて最長4年まで受給期間を確保できる
- ③回復して働けるようになったら失業手当に切り替え:延長を解除し、求職の申込みをして受給を始める
病気が退職理由なら「特定理由離職者」を確認する
ここが見落とされやすい点です。ハローワークの「特定理由離職者の範囲」には、正当な理由のある自己都合離職として「体力の不足、心身の障害、疾病、負傷、視力の減退、聴力の減退、触覚の減退等により離職した者」が明記されています。該当すると判断されれば、扱いが2つ変わります。
- 給付制限がかからない:正当な理由のない自己都合退職なら原則1か月(令和7年4月1日以降の離職)待たされますが、特定理由離職者にはこれがありません
- 受給資格の要件が緩和される:原則は「離職の日以前2年間に被保険者期間が通算12か月以上」ですが、特定理由離職者は「離職の日以前1年間に通算6か月以上」でも受給資格を得られます
よくある誤解を5つ、訂正します
- 「傷病手当金は給料の3分の2」→ 正しくは標準報酬月額の平均の3分の2。賞与は含まれず、残業代の変動もそのままは反映されません。加入12か月未満なら32万円との低いほうで計算されます
- 「同時にもらえないなら、どちらかを諦めるしかない」→ 順番に両方受け取れます。療養中は傷病手当金、回復後は失業手当。橋渡しをするのが受給期間延長です
- 「受給期間を延長すると、もらえる日数も増える」→ 増えるのは期限だけ。所定給付日数(90〜330日)は変わりません。延長は「権利が時間切れで消えるのを防ぐ」制度です
- 「退職後にまとめて申請すればいい」→ 時効は2年。傷病手当金の時効は労務不能であった日ごとに、その翌日から2年です。放置すると古い日から順に請求できなくなります
- 「病気で辞めたから自己都合で、1か月待たされる」→ 特定理由離職者なら給付制限なし。離職理由の判断はハローワークが行うので、自己申告せずに必ず相談してください
申請書のどこで詰まるか
協会けんぽの「健康保険傷病手当金支給申請書」は4ページ構成で、書く人が分かれています。ここを知らずに1人で全部書こうとして止まる人が多い箇所です。
| ページ | 記入する人 | 詰まりやすい点 |
|---|---|---|
| 1〜2ページ | 被保険者(本人) | 申請期間、療養のため休んだ期間、報酬の有無、年金・労災の受給状況。退職後の申請では「退職前の仕事の内容」を書く |
| 3ページ | 事業主 | 勤務状況と給与の支払い状況の証明。退職後は元の勤務先に依頼することになるため、在職中に段取りを決めておくと滞りにくい |
| 4ページ | 療養担当者(医師) | 労務不能と認めた期間の記入。診察を受けていない期間は証明が得られないため、通院を切らさないことが実務上の要点 |
本人記入欄には、金額の調整に直結する3つの設問があります。
- 同一の傷病で障害厚生年金・障害手当金を受給しているか:受給していると傷病手当金の額が調整されます
- 老齢または退職を事由とする公的年金を受給しているか:これは退職等で健康保険の資格を喪失した後の期間についての設問です。継続給付を受けている人が老齢年金も受けている場合、年金額の360分の1が傷病手当金の日額より少ないときに限り、その差額が支給されます
- 別の傷病で労災保険の休業補償給付を受給しているか:請求中の場合は労働基準監督署名まで書きます
療養で収入が落ちた翌年は、住民税や国保の軽減判定に影響します。傷病手当金は非課税所得なので、その分は所得としてカウントされません。翌年の負担がどうなるかは住民税非課税世帯の条件もあわせて確認してください。
まとめ
- 傷病手当金(働けない人向け)と失業手当(すぐ働ける人向け)は同時にもらえない。療養中→回復後の順でバトンタッチする
- 当サイトの計算式で比べると、金額の逆転点は月収27万円前後。それより低い人は失業手当のほうが日額が高い
- 傷病手当金は標準報酬月額の平均が計算のもと。加入12か月未満なら32万円との低いほうで計算され、期間は通算1年6か月
- 退職後も受け取るには「継続1年以上の加入」「退職日に受けられる状態(=退職日に出勤しない)」の2つが必要
- 療養が続くなら退職後すぐ受給期間延長(最長4年まで確保)を申請。病気が退職理由なら特定理由離職者の判断をハローワークで確認する
参考・出典
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「傷病手当金」(支給条件・計算式・被保険者期間12か月未満の場合の32万円・通算1年6か月・資格喪失後の継続給付)
- 協会けんぽ「健康保険傷病手当金支給申請書」(4ページの構成と記入者・年金/労災に関する設問)
- ハローワークインターネットサービス「基本手当について」(受給要件・特定理由離職者の緩和要件・受給期間と延長)
- ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」(疾病等による離職の位置づけ)
- ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」(一部の特定理由離職者に関する注記)